日常生活に浸透している健康食品。いまや、約6割の消費者が健康食品を利用しており、50代以上の約3割がほぼ毎日利用しているという統計もある。
そうした中で、消費者庁は、健康食品の機能性表示を解禁するとともに、企業に健康食品の被害を報告する制度を導入する方針だという。これまで企業から直接、消費者庁に被害を報告する仕組みはなかった。 背景には何があるのか。
● 義務づけの背景には多発する健康被害
健康食品の被害報告制度を導入する方針が明らかにされたのは、2014年4月4日に消費者庁が開催した「食品の新たな機能性表示制度に関する検討会」第4回会合。 いまのところ報告の義務化は決定されてはいないが、何らかの強制力を持たせる方針だという。
今回、企業に報告を義務づけようとする背景には、食品の機能表示の解禁がある。 現在、「お腹の調子を整える」などの機能表示は、「特定保健用食品(トクホ)」と「栄養機能食品」のみに認められてきたが、それ以外の食品にも解禁しようというのだ。
相変わらず健康被害が後を絶たないことなどから、機能性表示の解禁には懸念もある。 消費者庁の「事故情報データバンク」によると、健康食品の事故情報は2009年4月以降、約2700件も寄せられているという。
今回導入が検討されている被害報告制度は、企業から健康被害の報告を義務づけ、消費者庁の情報収集体制を強化しようとするものだ。
● 求められる被害情報の一元化
現行でも、健康被害の報告制度はあるものの、我々消費者に十分情報が伝わっているか疑問である。
現在、健康食品の被害情報は、「全国消費生活情報ネットワーク・システム(PIO-NET: パイオネット)」や、厚生労働省の「『いわゆる健康食品』による健康被害事例(都道府県等から報告を受けた事例)」などで公開されているが、消費者から直接、健康被害の情報が寄せられているのは、消費生活センターや、保健所、健康食品メーカーなどの事業者だ。
消費者の健康被害については、たとえば「食べたところ吐き気や腹痛をおこした」などの症状があった場合、医療機関を受診することもある。
しかし、全国の消費生活センターに寄せられている被害情報は、商品名や企業名などが伏せられており情報が不十分だ。 また、「第4回食品の新たな機能性表示制度に関する検討会」の資料によると、各都道府県にある保健所からは消費者庁に健康被害の情報がほとんど報告されていないのが実態だという。
消費者庁は、厚生労働省や関係省庁と情報交換を行っているが、健康食品メーカーなどの事業者は保健所には報告の義務があるが、消費者庁へ報告の義務はないことなどから、どこまで正確に情報が共有できているかは不明である。
そこで、今回の改革案は消費者庁に情報を集約・一元化する体制をつくろうというのである。
・ 消費生活センターからは、商品名など銘柄を明らかにして消費者庁へ報告を徹底する。
・ 厚生労働省と消費者庁の情報の共有を強化する。
・ 保健所からの報告を徹底する。
・ 健康食品メーカーなど事業者からも報告を受けるようにするという。
などの制度の変更で、より早く正確な被害状況を把握し、消費者に注意喚起できることが期待されるが、まだ問題点もある。
● 食品と健康被害との因果関係を証明する難しさ
このように情報を収集するだけでは、まだまだ不十分だとする見方もある。
たとえば健康被害の原因になった食品を特定するためには、「ある食品を食べたことで健康被害が起きた」という因果関係を証明しなければならない。
人によっては、アレルギーを起こしやすい体質があり、一概に健康食品が原因と考えにくい場合もある。特定の成分を過剰に摂取してしまうと副作用が出てしまうこともある。これは摂取の仕方が問題で、健康食品が原因とは言えない。
実際、消費者庁も、食品と健康被害の因果関係を証明する難しさをこう述べている。
「医療関係者等を介さずに寄せられる危害情報等は、件数は多いものの消費者の自己判断(医学的根拠が明確でないことも)であることから、当該食品と健康被害の因果関係を特定するという面においては、その質が不十分であり、被害情報の質・量が不十分」などとしている。
米国でも、同じく因果関係の証明が課題になっていて、「栄養補助食品健康教育法(DSHEA)」で、サプリメントを販売する事業者に対し、15営業日内に連邦食品医薬品局(FDA)に健康被害を報告することが義務づけられている。
2008年から2011年の間に、FDAに報告されたサプリメント被害の情報は6307件。 そのうち 71%が企業からの報告だった。
しかし、限られた情報だったり、複数の報告間で情報が不一致であることなどから、健康被害の情報とサプリメントとの間に確かな因果関係が認められたのはわずか3%(217件)だったという。
● 「どう効くか」を知りたい消費者
我々消費者が健康食品に関して望んでいるのは、安全性はもちろんのこと、健康に対し「どんな効果があるか」という情報だ。
内閣府消費者委員会が発表した「消費者の『健康食品』の利用に関する実態調査」によると、「(健康商品を)購入する時に参考にしている情報(複数回答)」は、「機能性(効果・効能)」が最多で63%だった。
ついで「含有成分名・含有成分量」(61%)、「原材料名」(55%)だった。
健康食品メーカーとしても効果・効能を消費者に訴えたい。 しかし、健康食品は薬でないため、機能性をうたえば薬事法違反になる。 法制度と実態が大きく乖離している中、消費者はテレビや雑誌などの著名人の体験談や口コミなどで、「効きそう」な健康食品を自己判断で選んでいるというのが実態だろう。
米国では、DSHEA法で国に届け出れば企業が自らの責任で効果などを表示することができ、同時に「この表示は国によって評価されたものではありません」という断り書きを入れなければならない。 このような一文を入れることで、成分の機能性を表示できるという。
日本でも、このような打ち消し表示が導入されるかどうかは不明であるが、もしこのような表示が導入されたら、消費者はどう思うのだろうか。
消費者庁が2014年4月に発表した「食品の機能性表示に関する消費者意向等調査結果」によると、米国のように「この表示は、国によって評価されたものではありません」と表示されていた場合、「企業の自己責任で製造・販売される製品である」、「医薬品と区別がつけられる」、「他の食品に比べて消費者の判断力が問われる」などいずれについても「とても思う」「そう思う」と答えた人の割合は、合わせて6~7割程度だった。
また、機能性表示が解禁された場合、「企業の自己責任で製造・販売される製品である表示」が「必要」、「ある程度必要」と回答した人は7割以上、「トクホや栄養機能食品と区別がつけられる表示」については約8割、さらに「試験などで安全性が確かめられていることの表示」については8割以上が「必要」、「ある程度必要」だった。
「健康食品に機能性を表示する際に最低限必要な試験」についての質問では、ある食品を摂取した時の健康状態について調べる「ヒト対象試験」を挙げた回答が全体の6割以上だった。 消費者は客観的な科学的根拠を求めているといえる。
● 健康食品の機能性表示に山積する課題
食品の機能性表示解禁には、まだまだ課題が山積している。
1つには、どこまでの科学的根拠を求めるかということだ。
消費者庁の「食品の新たな機能性表示制度に関する検討会」では、安全性から機能性への議論にシフトしつつある。 現在、機能性の評価については、国と事業者でも意見が食い違っている模様だ。
国は「トクホ並み」の基準を求めているのに対し、事業者からは反発の声が上がっている。 トクホ並みの機能性を証明するためには、長い時間と高い費用がかかる。 その上、複数の成分が組み合わされている健康食品は、トクホのように単一の成分が健康にどのように影響しているかを証明するのは困難だからだである。
しかし、消費者へのアンケートの調査結果からも、消費者は科学的根拠を求めていることが分かっている。 そして、食品に機能性をうたうからには、トクホ並みまでにはいかないにしても、本当に効果があるのか、なんらかの科学的根拠が必要だろう。
2つには、消費者目線での表示を考えていくことだ。 米国のように「国によって評価されたものではありません」という断り書きを入れたとしても、言い訳じみた表示に、選択する消費者に自己責任でと言わんばかりで、責任転嫁とも取れる表現にもみえかねない。
どこまで機能性表示を許すのか。 消費者は健康食品の効能を重視しており、合理的に商品を選ぶためには正確な情報をできるだけ伝えるようにしなければならない。
しかし、いまのところ、誇大な表示や広告に消費者が影響を受けており、正確な情報が伝わっているとは言い難い。 望ましい表示のあり方についてはまだ議論が深められていないのではないだろうか。
そして、後を絶たない健康食品による被害への対策も必要だ。 国に求められるのは、事業者名と商品名を明らかにした、より正確な被害情報の収集と因果関係の分析だろう。
たとえ因果関係を証明できなかったとしても、すくなくとも同一の商品(食品)で、複数の健康被害が発生した場合などは、まず起こしやすい商品(原因と思われる商品)を推定し、消費者に注意を呼びかけることで、被害の拡大を防止できることが重要である。
機能性表示が解禁されれば、健康食品メーカーは、これまで曖昧な表現で商品の情報を伝達せざるを得なかったのが、より正確な情報を提供できるようになるのはメリットだろう。
しかし、その一方で、商品の科学的根拠が問われるようになるだろう。 新制度に対応できない企業は淘汰される時代がやって来るのかもしれない。
いずれにしても、メーカーを擁護するのではなく、まずは消費者保護の精神で我々消費者にとってより有益な制度にしてもらいたいものである。
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