2013年9月19日木曜日

けふの月馬も夜道を好みけり

実蒔原 2013.09.19
  今夜は、、「中秋の名月」である。

 中秋とは、陰暦の八月十五日、古くは「初秋:孟秋月(陰暦七月)」、「晩秋:季秋月(陰暦九月)」に対する語で、陰暦の八月を「仲秋(仲秋月)」と呼び、その月の十五夜の日を特に「中秋」、「中秋節」、「八月節」などとも言った。

 これは、中国から伝来したものが宮中や貴族社会に年中行事として取入れられ、やがて一般庶民社会へと拡がっていくなかで、日本本来の風習と融合して伝承されてきたものとも考えられている。

 陰暦が、月の満ち欠けの周期を基準とした暦法であったことからも、日本人と月との濃密な関係が想像できる。

 「月々に月見る月は多けれど月見る月はこの月の月(小倉百人一首:よみ人知らず)」と歌にも詠まれたように、古くより一年中でこの夜の月が最も澄んで美しいとされ、「月見」といえばこの月を指し、春の「花見」とともに秋の「十五夜の月見」は、人々の最大の楽しみの一つでもあった。

 空気が澄み、月の光も明るく爽快、涼しさを感じる夕べに、秋草や夜露に虫の音など、この時期ならではの風物のたたずまいが、いっそう月を明澄(めいちょう)にしたともいえる。

 この時期はまた秋の農作物の収穫時期でもあったことから、穂芒を挿し、収穫した新芋、栗、枝豆、野菜、果物や、団子などその年の初ものなどを供えて収穫を感謝し、月を祭る風習が各地に残されていて、古代からの農耕民族としての農耕儀礼の名残を見る思いがする。

 中国では、この日を「中秋節」と言って、春節(旧正月)、端午節(五月五日)などと並ぶ伝統的な祭日として祝い、瓜や果物を庭に並べ月に供え、枝豆や鶏頭花を捧げる風習が残されている。

 また、中国の伝統的なお菓子である「月餅」は、丸い形を月に見立てたもので、中秋節に集まった家族や親戚、友人たちとこのお菓子を食べる習慣があり、この時期になると、月餅や果物類を贈り合うのが盛んで、職場でも配られたりもする。


厚木 2013.09.19 20:15
月に兎が住んでいるといった伝承は、日本以外に中国や韓国でも語れ、中国では不老不死の仙薬を杵で搗いているとされ、日本や韓国では餅を搗いているとされている。

 これは、仏教説話にある猿・狐・兎の物語に由来するとも言われている。
 ある日、3匹は山中で行き倒れた老人に出会う。
猿は木の実を取り、狐は川で魚を獲り老人に食べさせてたが、兎は食物を採ってくることができなかった。
 そこで2匹に頼み火を焚いてもらうと、自らの身を食料として捧げるために火の中に飛び込んでいった。
 それを見た老人は、帝釈天の姿となり、うさぎの慈悲の行いを後世に伝えるために月へと昇らせた。
 それ以来、人々は満月を見る度に慈悲深い兎の行いを思い起こすようになったという。
これは仏教伝来とともに日本へ伝わったものとも考えられる。

 それ以来、子供たちに「お月さんにはうさぎが住んでいて、餅をついているんだよ」と言い聞かせてきた。

 また、「竹取物語」のかぐや姫伝説をはじめ、「この夜に月の光の下で針に糸を通すことができれば裁縫が上達する」とか、「この夜、しぼった糸瓜(へちま)の汁は、肌を美しくする」など、いろいろな俗信がうまれた。

 世界各地の国や民族にも月にまつわる伝説や伝承が残されていて、月の影が大きなはさみを持ったカニや、ライオンや、女性の姿に見えるなど、いろいろとあるようだ。

 1969年7月20日、アメリカのアポロ11号で打ち上げられた有人月着陸船が、初めて月に着陸し、アームストロング船長が人類最初の一歩を月面にしるした瞬間から、テレビで月からの中継映像を見ていた日本の子供たちは、この世紀の大イベントにわくわくしたと同時に、月にはもう兎もかぐや姫もいなくなったことを思い知らされた事を覚えている。



 「中秋の名月」に関係する言葉もたくさんあり、芋を食べ祝ったところから別名「芋名月」とも言われ、枝豆は、名月には必ず供えるならわしがあったので、月見豆とも言った。

 陰暦の八月十四日の夜(宵)は、名月を明日に控え待ち焦がれたところから「待宵(まつよい)」とも、「小望月(こもちづき)」などとも言った。

 また、十五日の夜に、雲りや雨天のために名月が隠れて見えないときを「無月(むげつ)」と言い、特に雨で見られないことを「雨月(うげつ)」とも言った。

 さらに、名月の翌日の十六日の夜を「十六夜(いさよい)」、十七日の夜を「立待月(たちまちづき)」、十八日の夜を「居待月(いまちづき)」、十九日の夜を「寝待月(ねまちづき)」や、「臥待月(ふしまちづき)」、二十日の夜を「更待月(ふけまちづき)」などと言い、この頃になると月も半分ほどに欠けてきて、光もほのかに寂しくなっている。

 また、陰暦九月十三日夜の月を「後の月(のちのつき)」と言い、枝豆や栗などを月にお供えし祭ったことから「豆名月(まめめいげつ)」または、「栗名月(くりめいげつ)」とも言い、「中秋の名月」と
両夜の月を対照し、片月見は縁起が悪いとすることもあった。これなどは、中国などでは見られないようで、日本独特の風習であろうか。

 尚、「中秋の名月」は、必ずしも天文学でいう満月と一致するとはかぎらない。今年は一昨年、去年と3年連続して満月であったが、次に「中秋の名月」が満月となるのは、8年後の平成33年ということだ。



” 名月や 池をめぐりて 夜もすがら ”      (松尾 芭蕉)


” けふの月 馬も夜道を 好みけり ”       (村上 鬼城)


” こんなよい月を一人でみてねる ”       (種田 山頭火)